『ごろごろ、神戸2』『ごろごろ、神戸3』

『ごろごろ、神戸2』『ごろごろ、神戸3』は2017年5月から2019年4月まで本ブログ管理者である平民金子が執筆し神戸市広報課サイトにて連載されたコンテンツです。現在神戸市広報課サイトに本コンテンツは掲載されておりませんので、このたび神戸市さんのご好意により本ブログへの転載許可を頂きました。記事の著作権は神戸市にありますが、書かれた内容についてはすべて執筆者にお問い合わせ下さい。本コンテンツに大幅に加筆をした『ごろごろ、神戸。』が株式会社ぴあより出版されています。そちらもよろしくお願いします。

2018-01-01から1年間の記事一覧

第16回 ふれあい荘のナイトくん

小津安二郎監督『東京暮色』は物語に救いがなさすぎるのでもう二度と見たくない、そう思いながらもつい繰り返し見てしまう作品で、それにしても恋人にだまされ深夜喫茶で補導され身も心もぼろぼろで家に帰って来た明子に対し父の周吉が「そんなやつはお父さ…

第15回 ミナイチ・エレジー

雨の降る日はあまり外出したくないけれど、どうしても外に出かけると言われては仕方がない。子供用と大人用、傘を2本用意して外に出て、雨の日にはいつもするように、傘を差している時に頭の上で間近に響くビニールにあたる雨の音と、その傘をさっと地面に下…

第14回 「お手伝いをしましょうか」

阪神電車の元町駅西口。改札を入って、ホームへ降りる階段の手前あたりに「お手伝いをしましょうか」というメッセージとどこか懐かしいタッチの絵が壁に架けられている。架けられているというよりも、外すのを忘れてそのまま残っていると言ったほうがよさそ…

第13回 原田通のイーサン・ハント

前々から受講したかった灘大学に今季ようやく申し込む事が出来た。さっそく初回の講義では、当地で創業90年になる萩原珈琲さんの歴史を学ぶ。今まで知らなかったのだが、会場である原田資料館の近くには大正13年からの歴史ある和田市場がかつて存在して、萩…

第12回 ビッグ赤ちゃんイカリ山

朝から晩まで赤ちゃんのオムツ換えに追われていた時期、私は毎日のように大丸百貨店前の「元町通1丁目」と書かれた交差点に立っていた。当時はすぐ近くのファッションビルの地下に、なぜか小さな子供たちの遊び場である「キドキド」がテナントで入っていたの…

第11回 なつかしさと、都合良さと

どういった会話の流れだったのか、酒場で「いま旅行するならどこがよい?」というような話題になって、私は「キューバだと思う」と即答した。親米政権から一転、1959年の革命からアメリカと国交断絶する流れがあって、アメリカ文化の受容という意味では半世…

第10回 いつまでもそのままで

先週、神戸新聞に3つの気になる記事が出ていた。三宮の駅前再開発と須磨海浜水族園および周辺再開発、神戸最大の個人商店密集エリアにあるミナイチ営業終了とビルの建て替え。どれも初めて知った話ではないのだが、こうも大きな再開発にまつわる記事を立て続…

第9回 海の家、20号、21号

メリケンパークとハーバーランドの中間地点、遊覧船が発着する中突堤中央ターミナルに行くと、何をどうすればこんなになるのかというくらいに、岸壁のフェンスが折れ曲がっている。被害を受けているのは一部の箇所だけで、遊覧船乗り場やフェンスの他の部分…

第8回 保久良山

ビールでも飲もうかと、海の家を横目で見ながら砂浜を歩く。しかしこれだけ暑いと注文したところですぐにヌルくなりそうやと、そのまま通り過ぎた。8月の海水浴シーズンの浜辺で見られる光景に対して、あんなん身体がベタベタするだけやとか、着替えがめんど…

第7回 中華冷や汁研究

酷暑が続くため「冷や汁」を家の定番メニューにしようと思い作り方を調べていたら、どうやら余った味噌汁を冷蔵庫で冷やしてご飯にぶっかければそれでOK、といった単純な話ではないらしい。非常に手間がかかるのである。何せいきなり「まず、味噌に焼き目を…

第6回 反響

「イルカの頭にあるコブは、ある果物の名前で呼ばれています。それはスイカでしょうか? メロンでしょうか?」 「スイカだと思う人!!!」(メロンもあり得ないが、スイカはさらにあり得ない気がする……)「メロンだと思う人!!!」そんな消極的な理由から…

第5回 視線

ショッピングモールや駅や公園などの公共空間で、人目をはばかる事なく大きな声で子供を怒っているお母さんを見かける事がある。そんな時、子供がかわいそうだと非難する気持ちよりも先に、感情が決壊してしまった母親への同情が先に立ってしまい、彼女に対…

第4回 日々

散歩道の地面に、見慣れない迷彩柄の蛾がとまっている。一人なら気にする事もなく通り過ぎるが、子供が横にいたので立ち止まり、「大きいチョウチョがおるでえ」と一緒にしゃがみこんだ。子供は初めて出会う昆虫を前にとまどったような態度を見せ、何を思っ…

第3回 空気坊主

煮詰まった頭が「ぐわーッ」となった時は、『もっこす』の暖簾をくぐってチャーシュー麺を注文する。ここでやけくそのように肉を食べていると次第に頭がすっきりしてくるのだ。毒をもって毒を制す、なんて書くとラーメンに失礼だが、健康か不健康かで分類す…

第2回 生活の柄

「ガサキングだよー、ガサキングだよー」と言って、両手をひろげて爪を立てるように指を曲げ、すべり台の上から先日見たばかりの怪獣の真似をする。滑走面の下でしゃがみ込んで大げさにおびえると、子供が上からすべってきて体ごとぶつかり、わたしが地面に…

第1回 ゴールデンウィークの過ごし方

5月の連休は神戸市内各所で様々なイベントが開催されています。いま「市内各所で様々なイベントが開催されています」なんて書きましたが、正直なところ「神戸は観光地だしどこか人の集まる所に行けば何かしらのイベントくらいはやってるんだろう」なんていう…

第48回 海に帰す

まぶたを閉じた暗闇の中でしばらく時間を数えて、ふたたびまぶたを開いた時に、一瞬のまぶしさとともに外界の輪郭がよりくっきりするような感覚をおぼえる。外にいる時でも部屋にいる時でも、子供のころからしょっちゅう私は目をつむっていた。ほんの十秒ほ…

第47回 ファンタジー

歩きだしたと思ったらしゃがみこんで、地面に手をあてて。また歩きだしたと思ったらしゃがみこんで、地面に手をあてる。いっこうに進まない足取りに内心いらいらしながら、その動作にいったいなんの意味があるのかと観察してみれば、こけた拍子に触れたコン…

第46回 モトコーにあった中華料理屋の話

元町高架下(モトコー)3番街の中華料理屋「梨園」が3月末で閉店となった。モトコーはいま再開発の話が大きく動き出したところで、あちらこちらの店舗で移転や閉店が続いている。神戸といえば高架下商店街、そんなイメージが私にもあり、引っ越して来たころ…

第45回 おすしはリバーサイド

花見客は皆、楽しそうである。私は毎年彼らの横を歩きながら「なぜおれを呼ばないのか」「なぜおれを呼ばないのか」「なぜおれを呼ばないのか」と四十年の間、問い続けてきた。そのせいか4月には桜ではなくルサンチマンが満開となり、結局花見に一度も呼ばれ…

第44回 宇治川にイルカが

「うまにのりたい、うまにのりたい」と以前から子供に要求されていたので、摩耶山で行われた馬の息災を願う摩耶詣祭に行ってきた。当日は花飾りをつけた馬たちが天上寺から掬星台までにぎやかにやってくる予定で、乗ることは出来ないまでも間近で見て楽しん…

第43回 はるかなる粟生線

数年前、インドのダージリン・ヒマラヤ鉄道を紹介するドキュメンタリー映像を見た。標高2千メートルを超える山を小回りが利くように小型化された機関車が、時には山肌を縫うように、時には雑踏をかきわけ、時には故障して立ち往生しながらも10時間近くかけて…

第42回 大丸屋上で豚まんを食べるフェス

世の中にはバーベキューや野外フェスに気軽に誘ってもらえる人間と、決して誘ってもらえない人間の二種類がいる。前者はつまるところ「こいつがいたら楽しいな、役にたつな、いても邪魔にならないな」と人に思われるような存在で、問題は私のような後者の存…

第41回 いかなごとか、ひなまつりのこと

先月の26日はいかなごのシンコ漁解禁日だったので、その日はきっと商店街がにぎやかだろう、取材に行って記事の題材にしよう、そんな事を決意してカレンダーに書き込んでいたのだけれど、赤字で大きく「いかなご」と書いた事だけですっかり満足してしまい、…

第40回 摩耶山の思い出

運動習慣がなくなって久しい。せっかく山が身近にあるのだから元気に山登りしたいという欲求はあるのだが、しかしいつも駅やバスを降りた真横でケーブルカーが「どうぞどうぞ」と待っていては、それに乗ってしまうのが人間というもの。毎朝母親に起こしても…

第39回 これはハルナだな

ステーキを買うとサイコロのような牛脂をつけてくれるので、せっかくなのでと熱したフライパンに置く。私はサラダ油でも充分に美味しく焼けると思っているけれど、プロの職人がセットで付けてくれるのだからこっちで焼く方がおいしいのだろう。しかし一枚の…

第38回 冬の水族館

特に混雑もしておらず、ベビーカーごと気兼ねなく入って行けるために重宝している飲食店がある。入口正面はお年寄りでも座りやすいようにと低いカウンター席になっていて、天井近くに置かれたテレビは誰が見るわけでもなくつけっぱなしになっている。しかし…

第37回 恵方巻き

大阪で生まれ育った私が幼少の頃から「今日は節分やから、丸かぶりやで」などと言われて接していた、太巻き寿司を切らずに食べる謎の風習。いつのまにかそれには「恵方巻き」という立派な名前が付けられて、この十五年ほどで全国的な流行になった。感心する…

第36回 なじみの場所に、さようなら

東京から引っ越した理由を聞かれた時にはとりあえず「神戸がおもしろそうだったから」とだけ答えているけれど、もう一つ「なじみの酒場が閉店したから」という、酒飲みにしか通用しないような、けれど私たちにとってはとても大きな理由もあった。三鷹駅南口…

第35回 「迷惑」の置き場所

散歩途中の公園でパンを食べていると、子供が自分のぶんをちぎっては、地面に放り投げ始めた。物を遠くに投げる動作が楽しいのか、えい!えい!とはしゃいで小さなパンくずを投げている。するとどこからともなく鳩がやってきて、それをついばむ。私は、あ、…