『ごろごろ、神戸2』『ごろごろ、神戸3』

『ごろごろ、神戸2』『ごろごろ、神戸3』は2017年5月から2019年4月まで本ブログ管理者である平民金子が執筆し神戸市広報課サイトにて連載されたコンテンツです。現在神戸市広報課サイトに本コンテンツは掲載されておりませんので、このたび神戸市さんのご好意により本ブログへの転載許可を頂きました。記事の著作権は神戸市にありますが、書かれた内容についてはすべて執筆者にお問い合わせ下さい。本コンテンツに大幅に加筆をした『ごろごろ、神戸。』が株式会社ぴあより出版されています。そちらもよろしくお願いします。

ごろごろ、神戸3

最終回 避けた小道

細い路地の向こうには日が当たっていて、やわらかい光の中に黒と、ぶちの2匹の猫が、体をくっつけて昼寝をしている。私は自転車で先を急いでいたのだけれど、視線の先のあまりにも完成された景色に遠慮して、どのような理由があってもそれを壊してはいけない…

第23回 お金のハンバーガー

漫画『サードガール』(西村しのぶ)を読んでいたら、大好きな時代劇を見るために職場から急いで帰宅したものの冒頭のシーンを見逃してしまい地団駄を踏む美也に対し、同居人の涼が、ボーナスも出たしビデオでも買おうか?と提案する場面があった。美也は「…

第22回 ラーメン屋でセットメニューを注文した時の時間差到着問題

みなさんこんにちは。遠くのほうに座っている方も聞こえますか? すいません、マイクの音量を少し上げる感じで、はい、もう少し。はいはいこれでOKです。 ごめんなさい、声が小さくて。さてあらためまして、こんにちは。今回は「ラーメン屋でセットメニュー…

第21回 高菜炒めつくろう

妹から姉に「雪だるまをつくろうよ」と呼びかけるのは、映画『アナと雪の女王』においては「(姉さんの)魔法をつかって遊びましょ」というサインだ。姉のエルサはどんな時だってそう言われれば仕方ないなあと、指先から氷を飛ばしたりお城の中に雪を降らせ…

第20回 コロッケのおいしさについて

二十代で自炊生活を始めた時、おい、これどないなっとんねんと驚いたのは、自分で作った筑前煮がめちゃくちゃにおいしかったことだ。ダシはスーパーで買った粒状のもの。調味料も醤油、砂糖、酒、みりんくらいで、特別な材料は何も使っていない。当時はパソ…

第19回 思い出すのは神戸のことばかり(神戸名所案内)

おととし「一時間で神戸案内」を書いて湊川エリアの商店街や市場を軽く紹介してみたら、思いのほか多くのリアクションを頂いた。「ごろごろ、神戸2」で書いていた場所に行ってみたよ、などと言われるといくら性格がねじくれた私でもうれしいものだ。それも他…

第18回 いつもよりあたたかかったので

元町商店街の西側の始まりである6丁目。その手前の横断歩道で子供を肩車し、信号が青に変わるのを待っていると、横から声がかかる。「にいちゃん西元町の駅ってどこやろ?」見ると知らないおばあさんで、私は正面を指さし「そこやでほら。信号渡ってすぐのと…

第17回 神戸鉄火巡礼

私には、この世に生まれて来た瞬間の記憶がある。産声を上げる事も忘れ、外界の眩しさに耐え、この問題を解決しないと自分は先へ進めないぞと、出てきたばかりの体をタオルで拭かれながら黙考していたのだ。それは「ビールに一番合うつまみは何か」という問…

第16回 ふれあい荘のナイトくん

小津安二郎監督『東京暮色』は物語に救いがなさすぎるのでもう二度と見たくない、そう思いながらもつい繰り返し見てしまう作品で、それにしても恋人にだまされ深夜喫茶で補導され身も心もぼろぼろで家に帰って来た明子に対し父の周吉が「そんなやつはお父さ…

第15回 ミナイチ・エレジー

雨の降る日はあまり外出したくないけれど、どうしても外に出かけると言われては仕方がない。子供用と大人用、傘を2本用意して外に出て、雨の日にはいつもするように、傘を差している時に頭の上で間近に響くビニールにあたる雨の音と、その傘をさっと地面に下…

第14回 「お手伝いをしましょうか」

阪神電車の元町駅西口。改札を入って、ホームへ降りる階段の手前あたりに「お手伝いをしましょうか」というメッセージとどこか懐かしいタッチの絵が壁に架けられている。架けられているというよりも、外すのを忘れてそのまま残っていると言ったほうがよさそ…

第13回 原田通のイーサン・ハント

前々から受講したかった灘大学に今季ようやく申し込む事が出来た。さっそく初回の講義では、当地で創業90年になる萩原珈琲さんの歴史を学ぶ。今まで知らなかったのだが、会場である原田資料館の近くには大正13年からの歴史ある和田市場がかつて存在して、萩…

第12回 ビッグ赤ちゃんイカリ山

朝から晩まで赤ちゃんのオムツ換えに追われていた時期、私は毎日のように大丸百貨店前の「元町通1丁目」と書かれた交差点に立っていた。当時はすぐ近くのファッションビルの地下に、なぜか小さな子供たちの遊び場である「キドキド」がテナントで入っていたの…

第11回 なつかしさと、都合良さと

どういった会話の流れだったのか、酒場で「いま旅行するならどこがよい?」というような話題になって、私は「キューバだと思う」と即答した。親米政権から一転、1959年の革命からアメリカと国交断絶する流れがあって、アメリカ文化の受容という意味では半世…

第10回 いつまでもそのままで

先週、神戸新聞に3つの気になる記事が出ていた。三宮の駅前再開発と須磨海浜水族園および周辺再開発、神戸最大の個人商店密集エリアにあるミナイチ営業終了とビルの建て替え。どれも初めて知った話ではないのだが、こうも大きな再開発にまつわる記事を立て続…

第9回 海の家、20号、21号

メリケンパークとハーバーランドの中間地点、遊覧船が発着する中突堤中央ターミナルに行くと、何をどうすればこんなになるのかというくらいに、岸壁のフェンスが折れ曲がっている。被害を受けているのは一部の箇所だけで、遊覧船乗り場やフェンスの他の部分…

第8回 保久良山

ビールでも飲もうかと、海の家を横目で見ながら砂浜を歩く。しかしこれだけ暑いと注文したところですぐにヌルくなりそうやと、そのまま通り過ぎた。8月の海水浴シーズンの浜辺で見られる光景に対して、あんなん身体がベタベタするだけやとか、着替えがめんど…

第7回 中華冷や汁研究

酷暑が続くため「冷や汁」を家の定番メニューにしようと思い作り方を調べていたら、どうやら余った味噌汁を冷蔵庫で冷やしてご飯にぶっかければそれでOK、といった単純な話ではないらしい。非常に手間がかかるのである。何せいきなり「まず、味噌に焼き目を…

第6回 反響

「イルカの頭にあるコブは、ある果物の名前で呼ばれています。それはスイカでしょうか? メロンでしょうか?」 「スイカだと思う人!!!」(メロンもあり得ないが、スイカはさらにあり得ない気がする……)「メロンだと思う人!!!」そんな消極的な理由から…

第5回 視線

ショッピングモールや駅や公園などの公共空間で、人目をはばかる事なく大きな声で子供を怒っているお母さんを見かける事がある。そんな時、子供がかわいそうだと非難する気持ちよりも先に、感情が決壊してしまった母親への同情が先に立ってしまい、彼女に対…

第4回 日々

散歩道の地面に、見慣れない迷彩柄の蛾がとまっている。一人なら気にする事もなく通り過ぎるが、子供が横にいたので立ち止まり、「大きいチョウチョがおるでえ」と一緒にしゃがみこんだ。子供は初めて出会う昆虫を前にとまどったような態度を見せ、何を思っ…

第3回 空気坊主

煮詰まった頭が「ぐわーッ」となった時は、『もっこす』の暖簾をくぐってチャーシュー麺を注文する。ここでやけくそのように肉を食べていると次第に頭がすっきりしてくるのだ。毒をもって毒を制す、なんて書くとラーメンに失礼だが、健康か不健康かで分類す…

第2回 生活の柄

「ガサキングだよー、ガサキングだよー」と言って、両手をひろげて爪を立てるように指を曲げ、すべり台の上から先日見たばかりの怪獣の真似をする。滑走面の下でしゃがみ込んで大げさにおびえると、子供が上からすべってきて体ごとぶつかり、わたしが地面に…

第1回 ゴールデンウィークの過ごし方

5月の連休は神戸市内各所で様々なイベントが開催されています。いま「市内各所で様々なイベントが開催されています」なんて書きましたが、正直なところ「神戸は観光地だしどこか人の集まる所に行けば何かしらのイベントくらいはやってるんだろう」なんていう…