『ごろごろ、神戸2』『ごろごろ、神戸3』

『ごろごろ、神戸2』『ごろごろ、神戸3』は2017年5月から2019年4月まで本ブログ管理者である平民金子が執筆し神戸市広報課サイトにて連載されたコンテンツです。現在神戸市広報課サイトに本コンテンツは掲載されておりませんので、このたび神戸市さんのご好意により本ブログへの転載許可を頂きました。記事の著作権は神戸市にありますが、書かれた内容についてはすべて執筆者にお問い合わせ下さい。本コンテンツに大幅に加筆をした『ごろごろ、神戸。』が株式会社ぴあより出版されています。そちらもよろしくお願いします。

第7回 中華冷や汁研究

酷暑が続くため「冷や汁」を家の定番メニューにしようと思い作り方を調べていたら、どうやら余った味噌汁を冷蔵庫で冷やしてご飯にぶっかければそれでOK、といった単純な話ではないらしい。
非常に手間がかかるのである。
何せいきなり「まず、味噌に焼き目を作る」なんて書いてある。
そして「皮と骨を取り除いたアジの干物をすりこぎで細かくして」なんて書いてある。
これは「簡単!チャーシューの作り方」みたいなレシピを見ていたら、最初に「お肉をタコ糸で縛る」と書いてあるような、目にした瞬間にズコーッとなるハードルの高さ。
まさに、作ってくれるなと言わんばかりのややこしさだ。

家庭料理は手間を省いてナンボ。時間との勝負である。
私はめんどくさくなって、味噌を使った冷や汁を2秒であきらめ、方針を転換し中華風冷や汁を作製する事に決めた。

というわけで、まずは最近新開地の路上でおじさんが手作りしている謎の紙粘土人形を用意する。
次に、須磨海浜水族園本館3階にあるレストラン「うみがめのお店」で、400円ごとに1個もらえるスタンプを10個集めたらもらえる、スタッフ手作りのチンアナゴのぬいぐるみを用意する。
そして最後に、ヒガシマルのラーメンスープを用意してほしい。

ラーメンスープは一箱(8袋入り)200円しないすぐれもので、関西以外でも売っていると思うが、もし近くのスーパーになくても今はネットショップで簡単に買えるだろう。
定量だと1袋につき350mlの湯で溶かすのだが、今回は食べる時に氷を入れて薄くなる事を計算するので、湯は250mlで良い。300mlでもいいような気もする。まあ濃いぶんにはいくらでも後から薄めればよい。

知らんおっちゃんが作った謎の紙粘土人形や、スマスイのスタッフ手作り人形は、なければないで大丈夫。

適当な容器を用意して、粉を入れ湯を入れ2秒で完成である。
あとは冷蔵庫で冷やしておこう。

さて、ここからは具作りだ。
塩もみしたキュウリだけでもいいのだが、ここではメキシコの屋台でよく食べた、肉しか入っていないトルタ(サンドイッチみたいなやつ)を思い出して、参考に具を作る。

スーパーに行き、トリ手羽元を買ってきて、茹でてひたすら身を指でほじる。
手羽元を選ぶ理由は、肉部分、コラーゲン部分、軟骨部分と、三種類の食感が味わえるから。
軟骨の所はナイフや包丁を使って大雑把に取ればよい。それをひたすら包丁でタンタタンタン、タンタタンタンと叩き続けて、細かくなった肉をボールに入れ醤油、胡椒、味の素、輪切り唐辛子をまぶして味付け。

私たちが昔なつかしいと感じる、古びた中華料理屋のたとえば醤油ラーメンの味というのは、つまりは化調と胡椒と醤油。そんな中華屋っぽさを再現しよう。

熱々ご飯に、輪切りにしたキュウリを敷き詰める。
塩もみするのがめんどくさかったので、薄切りしたものをそのまま使っている。

先ほどの肉を盛って、レモンを並べる。
写真ではかいわれ大根が入っているがこれは別に必要ない。

ご飯に氷を3つか4つくらい置き、冷蔵庫から取り出した先ほどのツユをかける。
これで中華風冷やしぶっかけ丼の出来上がりである。

私はハマり出したら延々と同じ物を食べる習性があり、今回さまざまな具を作って試してみたけれど、まあ何を選んでもだいたい合格点であった。
しかし他の物が普通に美味しいとすれば、これだけは特別の存在だ。

以下に、テストした他の具を並べてひとこと感想を書いておく。スープはすべて同じものです。

「豚しゃぶ肉と水菜を使った中華冷や汁
これはなんというか、贅沢な言い方なのだが、想像通りの味なのだ。
美味いのだが、鶏レモン中華冷や汁のような驚きがない。
★★★(星は5点満点)

ゴーヤチャンプルーの中華冷や汁
なんとなく、ゴーヤチャンプルーはこのスープに合うだろうと思っていたので、試したら実際に合う。
しかしこれも想像通りで別に驚きがない。
だから何?騒ぐほどかあ?白ご飯と食べた方がええやん?
と言われてしまいそうな、隙のあるハンパな味だ。
★★

「元町豊味園の蒸し鶏冷や汁
軽い気持ちで蒸し鶏と合わせたのだが、特製ネギソースと冷製スープが想像を超える相性の良さ。
満点をつけたいところだが、誰もが神戸の元町に来れるわけではないのでそのぶんマイナス。
わざわざ中華味で冷や汁を作る以上は、こういう化学反応がほしかった。
★★★★

「自家製山形だしを使った中華冷や汁
山形だしの作り方は簡単で、キュウリ、ナス、ミョウガ、オクラ等好きな具を細かく切って軽く塩で揉み、私の場合は塩こんぶを混ぜて味をキメている。
これは中華風にする必然性がまったく感じられなかった。
同じヒガシマルなら、うどんスープの方が合うだろう。しかし身もふたもない言い方をすると、わざわざ味付けスープをかけるよりもお茶をかけた方がおいしい。
なんやねんお前、と食べながら腹が立った。山形だしにも失礼である。

「お肉屋さんの焼豚冷や汁
焼き豚を使って何パターンか作った。肉以外の具はシンプルかつ少量にするのが良い。
「豚しゃぶ肉と水菜を使った中華冷や汁」と違い、同じ豚肉でも脂の多いバラ部分を使う時は、氷を入れない方が美味しい。
焼豚は冷蔵庫から出して使う時はレンジで10秒ほどチン、それかフライパンで軽くあたためる。
熱いご飯に具を乗せて、冷たい汁をかける。
ここが大事で、焼豚を使う場合は「ぬるい」と感じられるくらいの温度がもっとも旨味が出る。
★★★★

「塩もみキュウリと豚肉いための冷や汁
いま出ている『きょうの料理』8月号は夏野菜特集で、そこできじまりゅうたさんが紹介していた「塩もみきゅうりと豚肉の炒めもの」を冷や汁に使う。
これは豚肉と塩もみしたキュウリを炒めて、軽く塩コショウしただけの簡単料理。
肉はバラ部分を使ったので先ほど書いた通り、氷は使っていない(スープは薄めて使って下さい)。
なお、きじまさんはビニール袋にキュウリを入れて、空気を入れた(ボールのような)状態でシャカシャカ振って塩を馴染ませる、その後空気を抜いて冷蔵庫に15分置くという塩もみ法をやっており、それが非常に勉強になった。
このシャカシャカ塩もみだと冷蔵庫で塩が馴染むのを待っている間に料理の他の工程が出来るので、面倒にならない。
★★★

結局のところ、最初に紹介した鶏とレモンの冷や汁に行き着く。
これが絶対に、革命的においしい。
私が中華料理屋の店主なら「中華冷や汁はじめました」と店に貼るだろう。

完成形としては、キュウリは素のままではなく、先ほど紹介したシャカシャカ塩もみキュウリを使いたい。
塩もみする時、塩は軽くほんのひとつまみ。「これだけでええの?」というくらいの量でじゅうぶんです。
食べる時にブラックペッパーをガリガリと削ってもよい。
★★★★★★★★★★

さて、そんな冷や汁研究家の私がぜひ紹介したい場所が神戸にある。
地下鉄西神・山手線「総合運動公園駅」降りてすぐの場所にあるちゃぷちゃぷ池である。
(9月17日まで開放)

ここは深い場所でもせいぜい大人の膝下くらいまでという、小さな子供のための水遊び場。
今の季節、須磨海岸などは元気な人たちでエラい事になっているけれど、ここは大人だけで来ておもしろい場所でもないので、広々とした人口池に子供たちがのびのびと走りまわったり、おそるおそる水に入ったりして遊んでいる。
子供を連れ歩く場所が豊富にありまくるのが神戸の良いところだとつくづく思うけれど、まだまだこんな場所があったとは。幼い子供を連れて海やプールに行くよりも10倍キラクで、水遊びの入門場所としては最適。

この場所に来て、冷んやりしたダシにつかりながら、ああ私はいま、具になったような気分だな、なんて思うわけだ。
まさにここは、冷や汁の聖地だと言ってよい。