『ごろごろ、神戸2』『ごろごろ、神戸3』

『ごろごろ、神戸2』『ごろごろ、神戸3』は2017年5月から2019年4月まで本ブログ管理者である平民金子が執筆し神戸市広報課サイトにて連載されたコンテンツです。現在神戸市広報課サイトに本コンテンツは掲載されておりませんので、このたび神戸市さんのご好意により本ブログへの転載許可を頂きました。記事の著作権は神戸市にありますが、書かれた内容についてはすべて執筆者にお問い合わせ下さい。本コンテンツに大幅に加筆をした『ごろごろ、神戸。』が株式会社ぴあより出版されています。そちらもよろしくお願いします。

第14回 メリケンパーク、行くのがめんどくさい問題

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どう考えてもメリケンパークの最大の弱点は、駅からのアクセスのしにくさだろう。距離的な問題以上に、途中で高速道路が立ちふさがっているため、なおさら遠い感じがする。人呼んで「メリケンパーク、行くのがめんどくさい問題」である。ただその事については私が考えるまでもなくおそらく多くの人が同じように考えていて、神戸市長も『月刊神戸っ子』という雑誌(2月号)で町の南北の分断について語る中で、「夢のような話ですが…」「数十年かかるかもしれませんが」としつつも阪神高速道路の地下化に言及している。実現する事の難しさをすっ飛ばして結果だけを想像してみれば、もし高速道路が地下化され元町や三宮から歩いてスムーズにメリケンパークまで行く事が出来たら道中はさらに歩行者に優しく整備され、メリケンパークに来る人は今より大幅に増えるだろう。

しかし最近、この「メリケンパーク、行くのがめんどくさい問題」について、私はある発見をしたというか、考え方が180度変わった。アクセスのしにくさは弱点ではなく、むしろこの場所の長所を構成する要件ではないだろうか。
長所とは新しく生まれ変わったメリケンパークが持つ独特の雰囲気の明るさ、風通しの良さだ。
そもそも、駅から遠いメリケンパークにわざわざ行こうとするような人は、よほど修学旅行等で意思に反して連行されて来た人間でもない限り、自分の意思で野を越え山越えて(そこまで遠くはないが…)やって来る。つまりこのアクセスのしにくさ、駅からの遠さは、楽しもうという自発的な意思を持った人間しかここまで辿り着けない仕組みでもあったのだ。新しくなったメリケンパークに行けばわかるが、ここにいる人間はほぼすべてが「なんだかしらんが楽しそう」なのだ。とにかく雰囲気が平和なのである。

古くからの神戸人であるほど、ハーバーランドメリケンパークのような若者向けの観光地には冷めた目を向ける印象がある。実際に私も何人かに良さを説いたり、世間話のついでに「昨日はメリケンパークに行ってきたよ」なんて事をしゃべるのだが、そのたびに「あそこは観光客が行くところやからなあ」というような食わず嫌い(?)の感想を聞かされる。私はそこで「観光客が行くような所やからこそ素晴らしいんやんけ」と言ってみる。日本人であれ外国人であれ、観光地に来てどこかへ行こうとする個人や集団は、みなポジティブな気持ちを持っている。外国人の場合ならなおさらで、わざわざ自分の国でパスポートを取得して航空券を買い求め日本の、それもわざわざ神戸のメリケンパークまで遊びに来て、その中で苦しげな表情をしている人は(おなかが痛い、とかでない限り)まずいない。今のメリケンパークは若者や旅行者たちの楽しもうとする意思があふれている。「来たはいいけど案外何もないな…でもいいや、BE KOBEで写真撮っとこうぜ!!!芝生で寝るぞ!!!」
各国語でのそんな会話が聞こえてきそうだ。案外何もない、お、おれもそう思ってた…!と駆け寄りたい。

成長する子供の体力にまったくついていけず、毎日が肉体の疲れとのたたかいであり、良い事も悪い事も5割増しくらいに過剰に感じてしまう今の私でなければ、こういう観点から見たメリケンパークの良さは気付かなかったかもしれない。別の状況にあれば私もまた、「あそこは観光客が行く所やからなあ」なんて事を言っていただろう。しかし今は、メリケンパークの風通しの良さや平和な雰囲気が何よりもうれしい。満員でゆずってくれる人もおらずベビーカーのハンドルを握りしめながらいつまでも乗れないエレベーターも、荷物だらけの状態で目にする「ベビーカーはたたんでお入り下さい」の表示も、わざとぶつかってくる人も狭い道で舌打ちしてくる人もなく、メリケンパークは私たちを広々と無条件で受け入れてくれる。芝生に座っているとスケボーに乗った若者達が前を通る。子供が手をふると、彼らは子供の目線にしゃがんでこちらに手を振りかえしてくれる。ここにいる人たちそれぞれが、お互いのテリトリーの中で誰にも干渉する事なく自由を楽しんでいる。この場所にあふれる「なんか楽しそうな感じ」に何度も心を救われた事を、ずっと忘れないでいようと思う。
神戸にメリケンパークがあってよかった。私はこの場所が大好きなのだ。

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