『ごろごろ、神戸2』『ごろごろ、神戸3』

『ごろごろ、神戸2』『ごろごろ、神戸3』は2017年5月から2019年4月まで本ブログ管理者である平民金子が執筆し神戸市広報課サイトにて連載されたコンテンツです。現在神戸市広報課サイトに本コンテンツは掲載されておりませんので、このたび神戸市さんのご好意により本ブログへの転載許可を頂きました。記事の著作権は神戸市にありますが、書かれた内容についてはすべて執筆者にお問い合わせ下さい。本コンテンツに大幅に加筆をした『ごろごろ、神戸。』が株式会社ぴあより出版されています。そちらもよろしくお願いします。

第6回 隧道は今日もすいとう、という話

神戸には、今の新開地商店街がある位置に湊川という大きな川がかつて南北に流れていて、大雨が降るとたびたび水害を引き起こしていた。今から100年以上前の明治の昔、これから町を発展させていくにあたってこいつは邪魔だぞ、だってこいつがあるせいで「兵庫」と「神戸」は分断されたままだし港にも土砂が流れてくるし、というわけで「えいや!」と重機など使わずすべて人力で川の流れを西方向に付け替えて、その先の山にはトンネルを掘って川を通した。そのトンネルが湊川隧道(ずいどう)である。河川トンネルとしての役割は震災によるダメージをきっかけに現在はすぐ北側の新湊川トンネルにゆずったが、なんせ貴重な構造物。隧道は現在、明治時代の土木技術に身近に触れる事が出来る産業遺産として月に一度、一般に公開されている。そしてトンネルの中ではなぜかクラシックやロックのコンサートが開かれていて、存在の重厚さと釣り合わないアットホームさだ。全国的に知名度があるわけでもなく、兵庫県民の中でもこの場所にわざわざ行く人は少ないのではという気もするが、すぐ近くに神戸新鮮市場もある上、夏場でも涼しいので私はここが大好きだ。

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あれは3月の第3土曜日のこと。「ブラタモリ見た?隧道出てたやろ。さすがに天下のタモリ先生が来たからにはもう、今までみたいに気軽には参加出来へん感じになってると思うよ。もしかしたら入場規制で入られへん可能性もある」…とまで言い聞かせ、妻子をともなって参加した放送翌月の隧道見学会。さびしいようなうれしいような、タモさん効果で人の波、気軽に入場出来る感じはなくなっていて30分40分待ちは当たり前、というような事をここに書きたいところだったが、行くと普通にすいていた。駅からも遠いしあまり関係ないみたいだ(上の写真は5月の見学会の様子)。そういえば私がたまに行く飲食店に以前、TOKIOのメンバーがテレビの取材に来たそうで、「へえ。じゃあ明日から聖地巡礼でファンの人たちがお店に来て忙しくなりますね」と言ったのだが、放送後にまた顔を出してみると「別に誰も来てくれへんわ。こんなとこ」と店主が言っていたので、神戸の人はタモリやジャニーズでは腰を上げてくれないのかもしれない。ちなみに、私がたまに行く別の飲食店に以前ターザン山下氏が取材にやって来た。数日後、道ばたで偶然出会った店主によれば「いやあ、放送翌日からけっこう番組見た人が来るんですわ。テレビって影響力すごいですねえ」とのことで、ここからわかるのは、神戸ではタモリよりもジャニーズよりもターザン山下氏の方が影響力がでかい。その影響力がどれくらいのものかというのは板宿の商店街を歩いてアーケードを見上げればわかるのだが、それはまた別の話。このイギリス積みのレンガ側壁、見てるだけでふるえてきませんか。中では毎月コンサートが開かれます。

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先日インターネットで大阪の大和川の付け替え事業について調べていたら、「水害が大変やねん。川を付け替えてくれや」と頼む側と、「そんな川をこっちに向けられたらかなわんわ」と反対する側、17世紀に出された双方の立場の農民による嘆願書が資料として紹介されており、興味深かった。しかしまったくの他人事のようにそれを「興味深かった」などと書けるのは、すでに300年以上も時が流れている、私にとっては異世界とも思えるほど古い時代の話だからで、これが100年ほど前の明治時代、湊川の付け替え事業に関してとなると、もう少し身近に様々な事が想像出来る。河川の付け替えは歴史的に見れば別に珍しい事ではない。なんにせよそうなのだが、万人が幸せになる施策というのはなかなかなくて、このような事業の場合当然、町の発展のためにと川を新しく向けられた側の立場というものもある。この湊川付け替え事業に関してもそういった資料はないものかと思って本屋や図書館で調べてみると『湊川を、歩く』(登尾明彦著)という本の中には「こっちに向けられちゃかなわねえ」という人達の声が書かれていた。かつての神戸の大発展の歴史とはすなわち港湾の大発展の歴史でもあって、湊川の付け替えはそのためには欠かす事の出来ない大事業だった。その後、元の川筋には新開地の町が出来て、そこはやがて一大歓楽街となる。

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さて、隧道とは関係ないが冒頭にも書いたとおりこの場所は私の大好きな神戸新鮮市場(3つの市場と2つの商店街の集合体)のすぐ近くで、見学会の入口側トンネルから歩いて5分くらいでマルシン市場にたどりつけ、そこから個人商店だらけの巨大迷路に入って行けるので見学のついでにぜひ立ち寄ってみて下さい。昨年8月に書かれた『河川トンネル、つなげ未来 「湊川隧道」保存に奔走』という記事を読んでいると、『今後は、地元の商店街「神戸新鮮市場」との連携も進めながら、さらに住民に親しみをもってもらえる仕掛けを考えたい』と書かれているので、これからどうなるか楽しみだ。神戸ポートタワーにあるメリケン食堂にはご飯がポートタワーの形に盛られたカレーが出されているが、湊川隧道ももし商店街とタッグを組んだなら、隧道にちなんだ食べ物を売り出してほしい。私が考えたのはマルシン市場の入口にあるクレープハウス「くれよん」さんと湊川隧道のコラボレーション商品「ズイドック(隧道ドック)」。これはレバーペーストとかチョコレートとかココアペーストとかを隧道のレンガ壁に見立てた特製ドックだ。隧道の壁を食べているような苦々しい気分になれる。ズイドックが商品化されたとして食べたい人がいるのかは知らないが(私は別に食べたくない)、くれよんさんは手作りクレープが170円から売られていておいしいからおすすめだ。見学帰りにぜひ、マルシン市場を通っていただきたい。写り込んでいるのは子供の頭。親の仕事の邪魔すんじゃねえぞ!

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