『ごろごろ、神戸2』『ごろごろ、神戸3』

『ごろごろ、神戸2』『ごろごろ、神戸3』は2017年5月から2019年4月まで本ブログ管理者である平民金子が執筆し神戸市広報課サイトにて連載されたコンテンツです。現在神戸市広報課サイトに本コンテンツは掲載されておりませんので、このたび神戸市さんのご好意により本ブログへの転載許可を頂きました。記事の著作権は神戸市にありますが、書かれた内容についてはすべて執筆者にお問い合わせ下さい。本コンテンツに大幅に加筆をした『ごろごろ、神戸。』が株式会社ぴあより出版されています。そちらもよろしくお願いします。

第12回 夏とはつまり……(須磨ドルフィンコーストプロジェクト)

大人になると、夏は純粋な夏となる。
そう、恋の予感や冒険の予感といった不純物が抜けて、暑さだけが残るのだ。
夏とはつまり、苦痛である。

そんな事を考えながら、テラスでよく冷えたシャンパンを飲んでいると、さっきまで寝ていた子供が私のところにやって来て
「お父さんおはようございます。やはり夏はどこにも行かないのが最上の贅沢ですねえ。今日は冷房の効いた部屋でのんびり過ごす事にしましょうや」
と言ってくれた。私は唇をナプキンで拭きながら
「ありがとう。きみはまだ2歳なのにずいぶん気をつかってくれるじゃないか」
そうお礼を言い、頭をなでてやる。さすが私の子供だ。
夏は冷房の効いた部屋でゴロ寝。冬は暖房の効いた部屋でゴロ寝。
人生の基本がよくわかっている。

というような想像をしながら、蒸し暑い部屋の窓を開け、朝起きて挨拶がわりのように泣き叫ぶ子供に冷蔵庫からバナナを1本とって与えてやる。子供は笑顔になりバナナを片手に狭い部屋を走りまわる。そして玄関に行って自分から靴を(左右逆に…)履いたかと思うと
「あんぱんまん!!!(訳:オヤジ。イカした夏だぜ。外に出ようじゃないか)」
と泣き叫ぶのだ。

幼児の体力が無限大である事は知識としては知っていたが、実際に朝から2歳児の相手をしているとはっきりと自分の体力のなさを突き付けられる。山奥で完璧に泣き声を無視しても良い環境ならともかく、隣近所のある住宅ではこうなると子供の要求を無視するわけには行かず、私は抵抗をやめ、うなだれて今日も炎天下の町に出る。

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いま須磨海浜水族園が夏休みに合わせてドルフィンコーストプロジェクトというイベントをやっていて(7月15日~8月31日)、公園でバテているよりは海でバテているほうがまだ気持ちいいだろうと思い、ぶらぶら行ってみた。
ここでは何か派手なアトラクションがあるわけではなく、海岸のはしっこでイルカが2頭、気持ちよさそうに泳いでいるだけだ。しかしなんだろう、このおだやかさは。浜辺に座って子供と砂をいじくっていると、目の前までイルカがやって来て、静かに去っていく。ただそれだけで他には何もない、のんびりした時間が流れている。

去年の夏も私は子供を抱いてJR須磨駅を降り、海の家が立ち並ぶにぎやかな浜辺をしばらく歩いたのだが、やっぱり今の時期の須磨海岸は若者のための場所だわな、と思って何もせずに帰ってしまった。自分はあくまでも子連れでしか動けないので、その意味において「ここは私の来る場所ではない」と感じたのだ。だから同じ須磨海岸の片隅に、親子連れでも楽しめるこんなユートピアがある事を知って驚いた。赤ちゃん連れはとにかく外に出るだけでハードルが高い。行ける場所も少ない。だからこういう場所も去年の私のように知らない人が多いと思うからぜひ紹介したいと思った。もちろん子連れであろうとなかろうと、1人でもカップルでも友達同士でも老若男女楽しめる。

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場所は須磨海浜水族園のすぐ裏の浜辺です(JR須磨海浜公園駅から歩いて10分くらい)。
この手作りな入口の感じからして楽しい予感しかしません。
ドルフィンコースト期間中は普段出口専用になっている水族園南口からも入退場可能なので、水族園とドルフィンコースト会場を自由に往復出来るようになっています(水族園に寄らずここに直接来るのもOK)。

決められた時間に各種のイベントをやっていて、下の写真は餌やり体験の様子。
よそのお子さんはたくましく海に入っていけるんですが、うちの子供はこの位置が限界で(2枚目)、これ以上近づこうとするとブチ切れます。まだ餌をあげるのは無理ですね…。
私に似て他人と充分な距離をとっておかないと安心できないタイプのようです。

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会場は11時から17時までオープンしていて、イベントスケジュールはこんな感じ。
11:00~ 浅瀬でイルカウォッチング
15:00~ 浅瀬でイルカウォッチング
16:30~ 浅瀬でイルカウォッチング

11:30~ 海でのイルカトレーナー体験(1000円)
12:30~ イルカ餌やり体験(500円)
14:00~ 海でのイルカトレーナー体験(1000円)

乳幼児連れは(うちの子供と同じように)海に入ること自体や動物との接触をこわがる子が多いと思うので、3回ある浅瀬でウォッチングが一番簡単にイルカを目の前で見ることができます。
うちの子供はまだこわがるのでふれ合い系のイベントには何も参加できません。
子供がもう少し大きくなったらイルカにごはんもあげられるだろうから餌やり体験やトレーナー体験(有料イベントは定員が決まっているので、水族館の受け付けで事前にチケットを買う必要があります)に参加させてやりたい。
参加している子供たちが楽しそうで、絶対に良い思い出になると思います。

さて、15分ほどのイベントが終わると人がいなくなるので、あとは人見知りの私たちの時間…。
ぼんやりと砂浜に座って海を自由に泳ぐイルカを眺めているだけ。
「どこまで(海に)近づける…?」と子供の様子をうかがいながら波打ち際で砂をいじくっていると、イルカ達が近付いて来てくれた…!
子供は指をさして大喜びで、私は私で最近ひさしぶりに映画『ジョーズ』を見たところなので、水面から出た背びれを見て子供とは種類の違う興奮状態です(イルカですけども…)。

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ドルフィンコーストを見終えたら園内に入ります。下の写真は炎天下の遊園地ゾーン。
「見て下さいよ。こんな暑い中だれも遊んでいませんよ。クーラーの効いてる本館の大水槽で魚を見て涼みましょうや……」という私の希望もむなしく、子供は私の手を引いてひとしきり遊具に乗らないと納得してくれません。
トーマスの機関車に乗って、ゾウの背中に乗って、白バイに乗る。
(これで私の今晩の刺身代600円がとびました)

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夏とはつまり、苦痛である。
大人になってからの私はそんな風に思っていたけれど、ここに来るとそんなにヒドいものではない気がしてきた。
暑い。暑い。暑くて仕方がないけれど、やっぱりスマスイは最高だ。
須磨の夏は始まったばかり。
ここを読んだ人はぜひ、行ってみてほしいです。

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